児童文学翻訳家の灰島かりさんを偲び…ローズマリー・サトクリフの作品を読んで。
- 2016/06/18
- 08:00

ローズマリーは「海のしずく」の意味。ローズマリー・サトクリフの名前を想いつつ、涙にも見える…海のしずく、ローズマリーの花をここに。
児童文学研究家、翻訳家の灰島かりさんの訃報を知りました。
(夫の鈴木晶さんのブログ記事)
最近では『ランドルフ・コールデコット―疾走した画家
亡くなられたことは本当に残念です。
子どもたちに、おとなたちにも…多くの優れた海外児童文学を届けてくれた灰島さん。ありがとう。まだ出逢っていない灰島さんの著書や翻訳の書もこれから是非よみたいと思っています。そして、あらためて今、私自身を大事に生きたい…そんな思いが静かに心に満ちるのを感じます。
ご冥福を祈り、灰島さんの翻訳によるローズマリー・サトクリフ作品との再会を書いた以前のブログから再掲します。
下記は灰島さんの訳:サトクリフのケルトの物語。
『 ケルトの白馬 』単行本
(ほるぷ出版)
『 炎の戦士クーフリン/黄金の戦士フィン・マックール』
ケルト神話ファンタジー (ちくま文庫)
『ケルトの白馬/ケルトとローマの息子』
ケルト歴史ファンタジー(ちくま文庫)
ローズマリー・サトクリフ (Rosemary Sutcliff、1920年12月14日 - 1992年7月23日)は、イギリスの女流、児童文学作家。歴史・ファンタジー。大人向けの著書もあり。
代表作にカーネギー賞を受賞した『ともしびをかかげて』『アーサー王と円卓の騎士』 などがある。
ともしびをかかげて〈上〉 (岩波少年文庫)
ともしびをかかげて〈下〉 (岩波少年文庫)
アーサー王と円卓の騎士―サトクリフ・オリジナル
(原書房・以下同じ)
アーサー王と聖杯の物語―サトクリフ・オリジナル〈2〉
アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉
ケルト神話やギリシア神話を元にしたもの、ケルトの民族やイングランド地方の話などが多い。
私が中学一年生の夏、カーネギー賞を受賞した本をいくつか読む中で、はじめて サトクリフの作品 に出会ったのが『ともしびをかかげて』。
当時の読書日記には「とてもおもしろかった…」と感動しつつも差し障りのない感想が書かれている。
しかし、それは、その頃の私が、文字に出来ない葛藤、苦しさを抱えていたからか?自分の家族のこと、自分自身、家族をめぐる自分のありのままの気持ちなど、たとえ、日記であれ、書けなかった。私が、そういったことを、少しずつ正直に記せるようになったのは、自分史を書いた中学三年の頃からだろうか。
今回、同じサトクリフのファンタジーを読みながら、当時の私の気持ちがありありと重なり、思い出されてきた。いったい、なぜ、こうした作品に私が惹かれていたのかも、腑に落ちるようだった。読みながら、何度も涙が溢れてきた。
ケルト歴史ファンタジー
『ケルトの白馬/ケルトとローマの息子
ローズマリー・サトクリフ著 灰島かり訳
ケルト歴史ファンタジー ちくま文庫 2013年1月10日第一刷発行
古代ケルト人の描いた巨大地上絵「アフィントンの白馬」の謎をもとに、紀元前1世紀のイングランドで、馬と生きた、先住民の血が混ざった…イケニ族の族長の息子ルブリンの運命を描いた『ケルトの白馬』。
その200年後ローマのブリタニア遠征を背景に、ケルト人に育てられたローマの血を引くベリックが、ケルトを追われた後、壮絶な日々を乗り越えながら、平安に導かれるまでの物語。『ケルトとローマの息子』。
この2つの物語に共通しているのは、本人にはどうすることもできない血筋、の違いにより、育てられ育ち合った人たちから疎外されたり、追われたりした息子達のストーリーだということ。
一緒に暮らす家族との間に、あるときを境に、気づかされる壁の存在。その壁は、どんどん増長して、お互いを引き離してしまう。それでも、そう、私も。家族の一員として、家族の中の誰かに所属しているものとして、忠実に、尽くそうとする。しかし、その思いは叶わず、満たされず、所属感のなさ、孤独感、虚しさ、屈辱感さえ味わうようになる。ましてや敵陣に渡されるような気持ちは辛い。
しかし、この2つの物語は絶望の物語ではないと思う。
『ケルトの白馬』はハッピーエンドではないけれど、ルブリンは、ひとりの人間の生死をこえて雄大な自然と共に、イノチをつなぐ大きな作業を成し遂げ彼の人生を全うしたようにも思える。
『ケルトとローマの息子』は過酷な日々の中で、何度も、もう終わりなのだと、あきらめ、恐れ、怒り、悲しみ…といった感情を持ち、しかし、また、立ち上がり、生きるための努力を重ね、夢を持ち、癒し、歩み出していく。
人間を。生きることを。幸せになれることを信じられなくなる。やっと平安が訪れても、そこから逃避するこさえ考えてしまう。けれど、踏みとどまり、思い直し、勇気をもって幸せに生きることへ向かっていく姿は、まさに、サバイバー、リカバリー。
もちろん、理不尽さでいっぱいなのだ。なぜ、虐げられるのか、奴隷にされるのか、殺されるのか…。でも、ただ、それを否定することでなく、ただ、嘆くことでなく、その中でどう生きるのか、生きたのか、ありのままに、淡々と丁寧に綴られた作品は、心に静かに深く響いてくる。
私は、いま、かつての所属感のない孤独感から解放され、過去の傷も少しずつ癒し、穏やかな日々を生きられつつある。自分の大切な居場所、と言える具体的なつながりも、いくつか持つことが出来ている。
そうした居場所を通して、気づかされ、学び、与えられてきた感覚として、今は、どこかに所属していることに安心感を求めるというよりも、何か、もっと、大きく、ゆるやかで、豊かなつながり、循環、プロセスの中に、自分が生かされている、という感じを持っていて、その中で、私は心身の平安をもらっているようだ。
サトクリフの作品は、風の香り、葉の色、毛布の温もり、スープの匂い…、自然や暮らしが今ここにあるように、細やかにありありと描かれており、人が生きるということが、本当に、自然や暮らしとともにあることを、あらためて確認させてもらえる。
小さな頃から、本に生かされてきた。サトクリフの作品も、きっと、中学生の私を、そして、今に至る私をささえてきてくれたのだろうと思う。本は、今も、私の大切な心の居場所のひとつ。感謝だ。
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