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新しい良心の在処を見つける。いとうせいこうさんの『想像ラジオ』を読んで。5年目の3月11日。

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東日本大震災から5年を迎える3月11日。

曜日もちょうど同じ。

私は最寄り駅の裏道を駅側に渡ろうとしていた。ゆさゆさと揺れる信号機を見ながら、あまりの揺れに船酔いのような気分の悪さを感じていた。電車はすでに運転をやめていたが駅ビルは壊れた様子もなく人々はそれぞれの所用に向かい、私もまた同じようにした。

しかし、しばらく経つと外に居ても震源地はこのあたりではなく東北で大変な事態になっていることが伝わってきた。そして帰宅後津波の映像をTVで見た。深刻さを増していくばかりの被災地の情報。原発が壊れたことによって多大な放射能汚染が広がっていることを知っていく。

とはいえ今振り返れば、この時はまだ私は楽観的だった。
ここまでのことが起きているのだから必要な救出や問題対処が行われるはずだ、と希望を持っていた。

日頃から今の日本の政治や社会が善良に動いているとは決して思っていなかったが。
どこかで私はこの国の良心を信じていたのだな、と振り返って思う。

しかし、違った…。

そういう失望、不信、不安、理不尽さへの憤りまでもが加わって、何重もの喪失感となり、3月11日から私自身の心の中には重たい石が置かれたようだった。





いとうせいこうさんの『想像ラジオ』を読んだのは昨年のことだ。



想像ラジオ (河出文庫)
いとうせいこう著 2013年刊行、文庫版2015年3月11日発行

しばらくの間、震災にまつわる本はほとんど読むことが出来なかった。

特に、小説は心が揺らぎそうで敬遠していた。



私の心の中には、悲しみ、失望、怒り、不安、恐れ、後悔、罪悪感、焦燥感、埋められない…様々な喪失感が存在し続けていた。(今も、無くなったわけではない)



一方であまりの大きな代償のもとに学んだ自然への畏怖と命の尊さの実感が今までにない形で心に染み入っていた。


そして自分に出来ることをして生きていこうという謙虚さのある前向きな気持ちも生じていた。



しかし、そんな心は混沌としていて、負の感情が前向きな気持ちに絡まり、身動きしにくい。
負の感情を抱え続けることへの恐れで、見ないようにすればするほど硬直していたような気がする。
大きく心が揺れたら身体も心も倒れてしまいそうな時期もあったから、痲痺させることも必要だったのかもしれないが。



『想像ラジオ』は昨年いとうせいこうさんのお話をクレヨンハウスで伺ったときにサインをしてもらい購入した。時期が訪れたのか自然な流れだった。


この本を読んで、私はとても救われた気がした。


登場人物は、様々な立場からメッセージしていて、それぞれにいろいろな気持ちを持っていた。

立場というのは、生者と死者、という立場をも含めている。

その気持ちがありのままに、声になり、文字になり伝わってきた。



想像していくことでしか、死者の声は聞こえてこないだろう。

想像することの意味と、価値。

死者との対話の中に存在する生者の生きること。



混沌とした気持ちを無理に整理しなければと焦ることはなく。

辛い感情を封印したり、手放そうとする頑張る必要もなく。

ただ、そのままにして、時折、取り出して思い返していけばいいのかもしれない。

ラジオで放送するように言葉にして。

リクエストやお便りをするように書き留めて。



そうするうちに、気持ちはひとつひとつ悼まれ、もしかして弔われていくのかもしれない。



そもそも生きているとは、どういうことなのか。

死者との関係を大切に考えたとき。

ただ、私は、ここに姿があり続けることに、ここで何かをして生きていくことにこだわって生きてきたことが、滑稽でもある。

今、ここに姿があるだけに過ぎない、と思うと、楽な感じもする。




死者を思い返すことによって、私たちは脈々と生きてきていることを感じられるのかもしれない。

過去と今と未来が繋がっている。

それは死者を思うことによって繋がっているとも言える。

過去を、歴史を振り返ること、学ぶこと、そのときの人々に思いを馳せること、そうやって繋がっていく。


未来に対しても同じようなことが言えるのかもしれない。

未来の子どもたち、社会に思いを馳せることの大切さ。



自然の営みを表したり、それらと呼応して人々が生きた記録を活かした暦の世界も、311以後の私をずいぶん助けてくれた。旧暦、地球暦、13の月の暦など。

それらはやはり、自分が、今だけを生きている、ここだけに生きている…狭い、刹那的で、自己ばかりに焦点が行きがちな生き方から離れ、自分自身がもっと雄大な世界に、人々の知恵と経験の流れの中に、生かされていることを私に教えてくれた。



死者との関係を含めた…広く深い豊かな世界の中にもっと大きな良心が働いていることを感じることができたとき、新たな良心を信じて私は歩み出す力をもらったような気がした。




5年目の3月11日に『想像ラジオ』を読み返した。

きっと来年も読むだろう。







いとうせいこうさんのTwitterで紹介されていた。↓

『想像ラジオ』と『遊動論』(いとうせいこうと対談) - 柄谷行人


いとうせいこうさんの著書いくつか…

ノーライフキング (河出文庫)

ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)


これは出たばかり!らしい。同じく、いとうせいこうさんのTwitterで見つけた → @seikoito



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