『自然農という生き方 〜いのちの道をたんたんと』古くて新しい答え。
- 2016/05/12
- 08:00

5月28日(土)に一箱古本市で参加するブックカーニバル・in カマクラに向けて、少しずつ本を引っぱり出しては読み返している。しみじみ本とお別れを惜しむような気持ちにもなる。でもわたしが仕舞い込んでいて時折りページを開くかどうかではもったいない。誰かがまた、あらたにページを開いてくれたら、それはとても嬉しいこと。まさに本望。今日の一冊。
『自然農という生き方〜いのちの道をたんたんと』
川口由一 + 辻信一 著 ゆっくりノートブック8
大月書店 2011年5月発行
「自然農」を実践してきた川口由一さんと辻信一さんの対談。
川口由一さんは1970年より無農薬・無肥料・不耕起を基本とした「自然農」を実践してきた。著者に『妙なる畑に立ちて』など。
辻信一さんは『スロー・イズ・ビューティフル』の著者で「100万人のキャンドルナイト」の呼びかけ人、NGO「ナマケモノ倶楽部」の世話人など、文化人類学者で環境運動家として知られる。
以前から関心のある方々だったのでいずれも著書を読ませてもらったり、辻さんのお話はイベントでお聞きしたことがある。それとはまた違った趣きで、この本はとても新鮮でインパクトが強かった。
折しも2011年震災の年の出版。帯には「3・11以後の世界をどう生きるか ここに答えがある」。
その答えを求めて、これまで以上に多くの人たちが社会の在り方や自身の生き方を振り返り、新たな道を模索し始めた時。
川口さんと辻さんは、お互いへ丁寧に問いかけ、確認し合い、深め合い、視野を広げ、未来への道を真摯に拓いていく。直接、3・11の出来事には触れていない。しかし「ここに答えがある」という。対談を通して、3・11以前から在った生命の原理を、現実の世界の上にほどき、また紡ぎ直していく。古くて新しい答え が導かれていく。
川口さんが「自然農」を始めるまでの歩みも綴られている。自身が農薬を使って農業を行い、農薬に身体を蝕まれた時代を経て。本当に様々な紆余曲折の人生の中に「自然農」「自然農としての生き方」を見いだし実践してきたことがわかる。誰も一夜にして悟りを拓き、何かを成し遂げる訳はない。それもまた与えられる必然なのだろうが、すべての人に、いろいろな人生の行方と可能性を提示していることも希望だ。
人間は植物なしには生きられない。
その命の源を育み、恵みを頂く農の営みは、単に技術だけで成り立つものではない。
「自然農の生き方」とともに「自然農」は存在するのだと思う。
「自然農の生き方」とは
すべてに意味があって起こり、必要なことが用意されていること。
すべては、宇宙から、古来から、必要なものが受け継がれてきたものだということ。
すべて、答えは自己の中にある、備わっているということ。
死があり、生があり、その間の時間を大事にたんたんと生きていくこと。
それを理解し、信じて。
今、ここに起きていること、すべてを与えられたまま、絶対的に受けとめることから始まる生き方。
この本を読み、そんなふうに考えた。
その受けとめる部分は、すべて。
半端に受けとめることではない。
日々の中で、受けとめている…とポーズを取りながら。
わたし自身がスルーしている部分はあまりに大きい。
心で、身体で、頭で、キャッチせずに、どこか通り抜けているような事柄がなんと多いことか。
受けとめないで蓋をする、場当たり的な対処をする、知らないふりをする。
そんなやり方に、矛盾が起きるのは必然かもしれない。
そして、蓋をしたり、場当たり的な対処をしたり、知らないふりをすることが。
結局、自己を傷つけ、他者を傷つけ、自然を傷つける。
それは軽率さによるものだったり、恐れにもとづくものだったり、傲慢さ故、あるいは善意からくるものだったりするかもしれない。
しかし、それらはすべて、川口さんのおっしゃる、余計なことであり、問題を大きくするもとになる。
すべてを受けとめてこそ、そのものの力が、はたらく。
その力を信じて、余計なことをしないこと。
修復力も含めて、自己の、他者自身、自然の本来の力を信じること。
表面的に川口さんの言葉を受け取ると、自己責任論の礼賛にもなりがちなのだが。
そのあたりを辻さんが、川口さんに誠実に語りかけ、わたしたちに真意が伝わるように言葉を尽くしてくれている。
そして、余計なことをしないことは…
何もしないことではない。
川口さんの言われていることを、わたしなりに言葉にしてみると…。
思いやりに溢れ、思慮深くあり、探究心をもち、創意工夫を重ね、努力を続けることだろうか。
「自然農」はそのような姿勢で実践れているようだ。
川口さんは本書の最後に「地球はもとより花咲き蝶舞う宇宙の楽園です。これから私たち人間が楽園をつくっていくのではなく、この楽園を壊さない生き方をしてゆけばよいのです。」と語り、辻さんが「人生は何をするかより、何をしないかだ」という詩のとおりですね。」と結んでいる。
3・11以降、わたし自身、この社会はこんなにも善意や良心がはたらかない、情けないものだったのか、と失望もしたし、その一方で金を集め支配するためなら何でもする…という存在が、あまりに大きくはびこっていることに唖然としつつ。善悪の価値観に振り回されることも多かった。
そうした中で…大きな受容の上に「自然農の生き方」を求めていくことは共感できる。
善悪を越えたところの受容。
楽園を壊さない生き方。社会の在り方。
社会を、まさに無農薬、無肥料、不耕起で…育てていくにはどうしたら良いのか。
…と思う。
川口さんも書いているように、最初、植物が弱いときには少し周りの草を抜いてやったりする必要がある…と。
壊さずに、育てることは、優しく、しかし深い。
そういうことも含めて、3・11以降の社会はひとりひとりが社会を「自然農」で育てていく、自らが「自然農の生き方」を実践していくことが大切なのだろう、と感じた。
******
さて、この本のシリーズ「ゆっくりノートブック」おすすめです。
わたしも、これまでいくつか読みました。
ゆっくりノートブックの表紙をめくると辻信一さんの覚え書きというページ。ご紹介。
……
……急ぐから忘れる。忘れるために急ぐ。忙しいから心を亡くし。
心を亡くしたいから忙しくする。急げば逃げる、逃げるために急ぐ。
ゆっくり歩けば思い出す。立ち止まればつながりが戻る。
時間をかければ広がり、深まる。待つ、待ってもらう、
魂がおいついてくるまで。そしてまたゆっくりと歩き出す。
今度は、魂を置き去りにしないように。
リメンバー。こころにとめる、とどめる、とどける。
ゆっくりノートブックは懐かしい未来のための備忘録。

ゆっくりノートブックのシリーズ(全8冊)
1・そろそろスローフード―今、何をどう食べるのか? (ゆっくりノートブック)
2・テクテクノロジー革命―非電化とスロービジネスが未来をひらく (ゆっくりノートブック)
3・エコとピースの交差点―ラミス先生のわくわく平和学 (ゆっくりノートブック)
4・ゆるゆるスローなべてるの家―ぬけます、おります、なまけます (ゆっくりノートブック)
5・いよいよローカルの時代―ヘレナさんの「幸せの経済学」 (ゆっくりノートブック)
6・スローメディスン―まるまる治る、ホリスティック健康論 (ゆっくりノートブック)
7・しんしんと、ディープ・エコロジー―アンニャと森の物語 (ゆっくりノートブック)
8・自然農という生き方―いのちの道を、たんたんと (ゆっくりノートブック)
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